損小利大

「儲ける」という目的の中で、相場予測は重要な項目でありますが、絶対的なものではありません。確かに相場の天底を当てれば儲かりますが、「儲ける事=相場を当てる事」ではありません。ここを履き違えてはいけません。投資家の目的は「儲ける事」であって相場を「当てる事」ではないのです。投資セミナーでも、「儲かる銘柄は何ですか?」「当たる銘柄を教えて下さい」との質問をよく受けます。この銘柄選択と相場予測が的中すれば、相場で儲かると考えていらっしゃる方々もいるようですが、事はそれほど単純ではありません。


一般的に成績優秀なトレーダーでも勝率は40 ~50 %と言われています。半分は外れているのです。それなのに、なぜ彼らは「儲かっている」のでしょうか?その答は、防御の仕方・攻撃の仕方に隠されています。相場を当てる事に関して、特に秀でているようには見えないトレーダー達が儲かっているのは、「損失は小さく、利益は大きく」を実践しているからなのです。


例を上げますと「9勝1敗」と「1勝9敗」を比較すると、9割の勝率を誇る前者が儲かっているように感じますが、小さく勝って大きく負ければ、勝率の高い「9勝1敗」でも損をしますし、逆に小さく負けて大きく勝てば相場が当たらなかった「1勝9敗」でも1回の利益が9回分の損失を上回っていれば儲かるのです。


「タートルズ」で有名なウィリアム・エックハートは、「新マーケットの魔術師」の中で『~前略「コントロールできないのだから、マーケットがどうなるかを考えてはいけない。そうなった時にどうするかを考えろ」~後略。』と述べています。相場を予言しようとするのではなく、相場の変化に対応できるようになる事が上達への道なのです。特に自分のポジションと逆行した時に、どうするかを訓練し、対応(防御)できるようにする、つまり損失を最小限に抑える事が重要なのです。


銘柄選択を行い、相場予測して「Entry」する訳ですが、ここまでの段階が成功しても「Exit」が失敗すれば、相場で儲ける事はできません。相場は「Entry」した後、「Exit」して始めて1ステージ終了なのです。相場で儲ける・継続して勝ち残るために重要なのは、「Entry」よりも、この「Exit」なのです。ただし、初心者の方のほとんどがとりあえず「Entry」した後、相場の状況を見てから決済しようと考えがちです。また、利食い目標は、儲かれば儲かるほど良いと思いがちで、損切り水準は、逆に深く考えようとはしない傾向があります。


銘柄選択・相場予測が当たり、思惑通りになればなったで、「もっと儲かるのではないか」とか「切りの良い節目まで待とう」などと欲が出たりして、往々にして利食いの機会を逸するのです。攻めの心理と欲が出ての心理は一見すると「もっともっと積極的に上を狙っていこう」と言う点で類似しています。そのために状況によっては、自分でも積極的な攻めの心理なのか欲から来る心理なのか、どちらなのか分別できない場合も出てきます。


攻めの心理には冷静さが含まれていますが、欲から生じる心理には冷静さが欠けているのが大きな違いと言えます。攻めの心理は「もっともっと攻めよう。しかし、この水準以上は無理をしてはいけない。」と冷静な判断が加わるのに対し、欲から来る方は「これ以上は無理との声もあるが、そんな事はない。 材料豊富だ。 あともう少しだけ攻めよう。」と、自己のポジションに有利な材料探しから、結局は失敗するまで攻め続けてしまうのです。両者は似て非なるもので混同させてはいけません。ここをうまく選別できないと、利食いは早く、損切りは遅くなってしまいます。また、基本的に人間の心というものは弱いものですから、その時になってから考えようと思っていても、市場の値動きが思惑と逆行した時には、冷静な判断は中々できません。「Entry」が成功しても「Exit」が失敗すれば、いくらいい所でマーケットに参加したとしても利が伸ばせなかったり、損が広がったりするのです。逆に「Exit」がしっかりしていれば、「Entry」が間違ってもリカバーする事は可能な訳です。市場に「Entry」する際には、必ず「利食い」「損切り」の「Exit」ポイントをあらかじめ決めてから参入すべきなのです。

(※ギャン師匠は利喰いポイントについては設定してはいけないと言っている。)


格闘技でも「防御」が最も重要ですが、防御技術を学ぶ際には、最初は大きく間合いを離す事から学び、次に様々な「受け」を学び、最終的には「防御」の動作を最小限にして相手の攻撃を紙一重で避ける訓練をしていきます。実力が均衡すればするほど「防御」動作を取ってから「攻撃」に移行しては、遅すぎる場合が多いのです。「防御」の理想とされているのが「流水」、すなわち、あたかも水の低きに流れるがごとく、常に相手の手足の数センチ先へ、先へ先へと円の動きで身を置く「防御技術」ですが、わずか数センチの紙一重で避けるから、いつでも反撃に移れるのです。上級者になればなるほど、無駄な動きは少なくなります。また、攻防一致の代表例がカウンターです。「防御」が同時に「攻撃」にもなる訳で、奇麗なクロス・カウンターが決まれば、自分の打った力と相手の打った力が重なり、相手に対する衝撃度は倍増します。当然、相手の攻撃が先に当たれば、こちらがノックアウトするリスクもありますが、大きなリターンを狙うなら、相応のリスクも背負わなければならないのです。ただし、相打ちの確率も高く、リスク/リターン比で考えるなら、有効な攻撃(防御)方法です。初心者の間は、最初は間合いを外すという意味で、迷ったらすぐに手仕舞うのが良いでしょう。まずいと思ったら下手な指値など設定せず、成行きで素早く損切るべきです。間違っても手抜け幅だけなどとは考えない事です。一旦、相場を外す事を気に掛け始めると、その考え方自体が相場に対して恐怖感や緊張を生み出してしまうのです。確かに相場の結果は大切ですが、個々売買の当り・外れに対して極端に恐れを抱く必要はないのです。外れて当たり前、長い目で見てトータルで儲かれば良い。くらいに気楽に考える方が良いかもしれません。どんな達人でも、相場の天底を的中し続ける事はできないのです。


満玉を張るという事は、思惑通り行けば大きく利が伸びる反面、逆行した場合、極端に「打たれ弱い」体質と言えます。「打たれ強く」なる為には、相場を外して負けても、簡単に「損切り」できる以上はポジションを建てない事です。こんな値段で「損切り」すれば、とんでもない状況になるから「損切り」出来ないのです。仮に歴史的大チャンスと確信したとしても「損切り」して再度、戦えるだけの資金は必ず残して建玉しなければなりません。相場における負けとは、相場を外す事ではなく、チャンスに参加したくても参加できない「手持ち資金の不足状態」なのです。小さく負けて大きく勝つと言っても、当然、損失取引から始まる場合もある訳で最初の連続の損失がそれ以降の取引証拠金に影響を与え、次に大相場が来ると予測できたとしても、現実にはそこで取引を中止、又は変更せざる得なくなる状況も有り得ると言うことです。これを避けるためにも、ある程度の損失を吸収できる資金配分を行う事が必要となります。下記表をご覧ください。


3回取引を行い、1勝2敗だが、値幅は小さく負けて大きく勝ちました。さて、結果は儲かるでしょうか? 検証してみましょう。手持ち資金100万円で証拠金6万円で取引してみました。A 氏は「5枚」、B氏は「1枚」、C氏は「10枚」で取引を開始。前提条件は2回負けて、1回勝つ(前2回以上の値幅)3回の連続取引です。2回連続負けましたが、A氏は3回目の取引で前2回の取引を上回る勝ちでトータルで儲かりました。B氏は、A氏と同じようにトータルでは儲かりましたが、A氏と比較すると儲けは少ない結果となりました。一番多くのポジションを持ったC氏は、2回の負けで3回目には、資金ショートを起こしてしまい、3回目の取引では3枚しか建玉できませんでした。小さく負けて大きく勝つ値幅が市場で発生し、予測できても、結果として相場に参加できず「儲からなかった」と言う結果となりました。


C氏のような負けを考慮しない過剰取引は勿論ですが、B氏のようにあまりにも余裕を持たせ過ぎた資金配分も非効率的です。無防備もいけませんが、過剰防御も勝つ為には妨げになります。A氏のように積極的過ぎず、消極的過ぎず、最適な資金配分を行うことが長期的な成功には必要条件です。この配分が難しい訳ですが、過去の「場帖」「チャート」等を参考に狙える値幅・それに伴うドローダウンはある程度想定できます。ただし、初心者の内は、B氏のような余裕を持たせすぎかなと感じるくらいからスタートした方が良いかもしれません。


こうして徐々に「損切る事」に慣れてきたら、指値も利用しながら、自分のコントロール下に「損切り」を置いていくようにします。「ピンチの後にチャンス有り」と良く言われていますが、相場が思惑と逆行してきた時こそ、大きなチャンスが隠れているのです。ここで恐怖に駆られて足がすくんだりしてはいけません。


剣の世界に「太刀結ぶ剣の下こそ地獄なれ、一歩進めば、そこは極楽」との言葉がありますが、恐い・苦しいと思えば思うほど、さらに悪い状況に陥っていくものです。その厳しい状態からほんの一歩進むだけで、状況は一変するのです。この一歩を踏み込む為に、厳しい稽古を積むのです。恐怖から相手の攻撃を避けようと言う意識が強すぎては、攻撃には移行できません。「防御の為の防御」では、いけないのです。あくまで「攻撃の為の防御」である事を意識しましょう。五輪書「水之巻」にも「敵のきる太刀を受くる、はる、あたる、ねばる、さはるなどといふ事あれども、みな敵をきる縁なりと心得べし」とあります。受ける(防御)という事は、目的ではなく、攻撃に移る手段なのです。


上級者になるほど、「損切り」の後、大きく儲けているモノです。防御に付随する無駄な動作がなくなり、「受け即反撃」できるようになれば、初心者卒業。良いトレードほど、ストレスなく簡単に儲かるのです。川の流れに反して、進めば強い抵抗に会いますが、川の流れに乗れば、多大な労力なくスーっと進むようなものです。自分が進む方向が間違っていたなら、すかさず方向転換すべきです。意地を張ってはいけません。市場で大きな力やストレスを感じるようなら、相場の流れに乗っていない証拠です。一旦、休むのも良いでしょう。例え結果がプラスになったとしても、流れに逆らった困難な相場に勝つ事が良い事ではなく、勝ち易い相場を確実に逃さない事が重要なのです。相場の風に乗り、波に乗るのです。逆風下で進んでも労多くして益少なしです。資本主義が存在する限り、マーケットがなくなる事はありません。戦う強い意志と資金さえ残っていれば、必ず「儲かる」チャンスは巡ってくるのです。個々の当たり外れによる負けを恐れず、適時「損切り」を行う事で、来るべき大きなチャンスをモノにする事が出来るのです。ポジションが逆行した時は、「危機」状況に陥ったと感じますが、「危機」と言う言葉は、文字を分解しますと「危険」と「機会」に分ける事ができます。「危機」と言うのは、単なる「リスク」ではないのです。必ずその後ろには、「チャンス」が存在するのです。リスクとリターンは表裏一体であり、大きな危機ほど、同時に大きなチャンスが隠れているのです。このチャンスを確実に得るために「防御」(損切り)するのです。


パンローリング株式会社

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